最近セカンドハウスや週末住宅ということをよく耳にするようになりましたが、別荘とは違うのですか?

大きな違いはないと思います。
ただ別荘よりも、セカンドハウスや週末住宅のほうがもっと身近なもので、プライベートな印象がありますね。
別荘というと、セレブと言われるような方々がパーティをしたり、作家や音楽家、画家といった方などが、創作活動のためにこもる場所だったり、避暑や湯治など・・
ごく一部の特別な方がある一定期間を長期的に過ごすためのもの。
これに対して、セカンドハウスや週末住宅というと、文字通り週末(休日)を過ごすための住宅という感じで、セレブや芸術家の方々だけでなく、一般の方々にも広がったように思います。
もちろんセレブや芸術家の方々も別荘を持つというより、セカンドハウスをという感覚が強くなっているような気がします。

過ごす期間が違うということですか?あくまで私の受ける印象です。

もちろん普段は短期間の滞在でも、時期によって長期間を過ごす方もいらっしゃるでしょうし、きっちりした線引きはできませんが。
ただセカンドハウスや週末住宅というと、家(別荘)というよりも、もうひとつの部屋を外に持つという感覚に近いと思います。キッチンや浴室など、家としての機能は必要なのですが、そこまでじゃない・・自分だけのホテルのような・・でもホテルじゃない・・みたいな。

むかし別荘・いまセカンドハウス(週末住宅)。みたいな印象もありますが、そのあたりはいかがでしょう?

その通りですね。
横文字の表現になっただけでなく(笑)
セカンドハウス、週末住宅といったスタイルは今の時代だから可能になった感覚だと思います。まずは週休2日という生活リズムが定着したことも何より大きいですね。私たちが子どもの頃のお父さんは土曜日がお休みというのは、ほとんどなかったように思います。
そして、交通の利便性や設備が向上したことが、週末に利用する別荘(あえて言いますが)を可能にしたのではないでしょうか。別荘地になるような場所は都会ではないわけです。海や山、自然が身近にある場所でないと意味がありません。
すると必然的に道路や鉄道など、そこまでのアクセスが問題になってきまし、寒冷地であれば冬季間の水道の凍結の問題が出てきます。
こうした問題が解決され、長期休暇をとったり、仕事場が自由にならない方々でも、セカンドハウスを楽に利用できる環境が整ったと言えるのではないでしょうか。

具体的には、どういうことでしょう?

私が多く手がけている軽井沢などは、典型的な例と言えるでしょう。
長野オリンピックを契機に新幹線や上信越道も整備され、格段によくなりました。今や東京から新幹線なら1時間のところで、うかうかお弁当も食べている時間もないほどです。
道路も上信越道が整備され、山道を延々走る必要もなくなりました。雪道を走ることもありませんし、タイヤだってスタッドレスで快適に走行できるようになりましたしね。チェーンを巻く必要もなくなりました。
設備についても、自動水抜栓や深夜電力を利用した蓄熱型の暖房が普及してきたことで、ランニングコストもほとんどかからずに、水抜きの手間や凍結の問題をクリアできてしまいます。面倒な水抜きも必要ありませんし、居室の暖房設備にも蓄熱型の暖房でまかなうように計画にすれば(補助的なものは必要になるかもしれませんが)、いつ行っても、あたたかい部屋が待っていてくれるわけです。

寒冷地で水抜きが要らないというのは便利!冬も気軽に使えますね。年代的にはどのような方が多いのでしょうか?

バラバラ・・(笑)
この年代に集中しているということはありません。
定年を機にという方もいらっしゃれば、小さいお子さんのいらっしゃる30代の方もいらっしゃいますし。DINKSの方とか、さまざまです。
ただ現代的な感覚だなと思ったのは、東京では賃貸(マンション)なのに、セカンドハウスをという方が結構いらっしゃるというところです。子育てに対する考え方もあったりするのでしょうけど。

自然の中で・・みたいな。

仕事のこともありますから、移住まではできないし。でも庭があって、土をいじらせたいとか、バーべQしたいとか。
「東京では得られないことを」ということで。
何より東京では戸建をもつなんて、ホントに大変なことですし、持てたとしても庭までは・・
中途半端なことなら、東京(都会)ではマンション暮らしでも、軽井沢など自然が豊かなところで、敷地もゆったりあって、トータルも安い!・・・みたいなところで、そういう考え方をされていますね。
私もそんな暮らし方に憧れます。

なるほどぉ。その感覚は新しい感じがします。すると、年代によって、建てる目的が違ったりするのですか?

これは年代というより、その方の環境とか、個人的なもので・・趣味に没頭したいとか、友達呼んでワイワイしたいとか、薪ストーブVS.暖炉の対決とか、それぞれ個人的なご要望もお話されますが、先ほどに話にもつながっていきますが、最終的に皆さんに共通しているのは、家族や夫婦のためだってことですね。

もう少し具体的に。

今の時代は皆さん忙しいじゃないですか。夫婦も共働きだったり、お子さんも塾に行ったり・・
さらには、お子さんも成長して独立してしまうと、なかなか家にも来れない・・・個人の時間がすごく尊重されるというか。
セカンドハウスは家族のコミュニケーションの補う場所かなと個人的には感じています。
建て主の方がそうおっしゃっているわけではありませんので、あくまで個人的な主観ですが。
避暑とか、そういうことが目的でなくて、「週末をゆったり過ごす」それも「家族で」。そのためのセカンドハウス。

確かに独身の方がというのはあまり聞いたことがありませんね。

あるかもしれないですけど・・(汗)

家族みんなでゆったり過ごしたいと。

とにかくセカンドハウスへ行って、ゆったり過ごしたいわけです。
これこそ皆さん共通です。
当然と言えば当然ですが、セカンドハウスを建てるといったときには、
必ず家族や夫婦の存在があって、それぞれ好きに過ごすにしても、個室でなく、
あくまでみんなで過ごす場所が欲しいわけです。これが主役です。
一般の住宅でも同じ側面がありますが、セカンドハウスではより明確で、それに特化しています。
寝る場所が何となく分けられれば、それでOKみたいなところがありますし、
むしろ、そういう空間も同じボリュームのなかに取り込んで、同じ面積でも広々ゆったり感を出したいみたいな。
家族が集まって、ゆったり過ごすためのツールとして、薪ストーブや暖炉があったり、テラスだって欲しいですし、
お風呂も気持ちいいところにつくりたいし、オーディオの環境だって、などなど。

核家族化も進んで、それが当たり前の時代になってしまいましたし、就職や結婚を機に独立してしまうとなると、お子さんと一緒に過ごす(暮らす)時間が短くなりました。

特に結婚してしまうと、都会ではスペース的にもなかなか難しいですしね。
二世帯住宅というのが出てきましたけど、
二世帯住宅で育ったお子さんが結婚して子供がいる時代ですから、
三世帯住宅に建て替えるの?(笑)
みたいなところで、新しい「住まい方」というのが求められてきていると思います。
そういう意味でもセカンドハウスは、独立したお子さんたちと一同に会すきっかけになる場所でもありますし、そのときにはお孫さんも一緒に、となるでしょうし。
それから共働きが当たり前の時代ですから、そういう意味でも、お父さんだけでなく、お母さんもお子さんと一緒に過ごす時間も短くなっていますし、夫婦の時間も短くなっています。
忙しいお父さん、お母さんがお子さんと一緒に自然と触れ合いながら、コミュニケーションをとる場所でもあります。
そして、そのための空間が必要なのです。
ですので、私が手がけるセカンドハウスは、ほとんどワンルームに近い構成になっています。
もちろん個室もありますが、最低限です。

「家族のコミュニケーションの場として」のということですが、実際はお友達を呼んだりしているわけですよね?

セカンドハウスでの来客はたいてい親しい友人です。
ここも別荘との違いです。接待のためとか、そういうことではありませんので、極端な言い方をすれば雑魚寝でもよいわけです。男女さえ分けられれば。このあたりはあくまで考え方のひとつとしてということであって、建て主の方のご要望によりますけどね。とにかく夫婦や親子、家族の場としてのセカンドハウスであって、それ以外のところは、刺身のツマみたいなところでしょうか。

身近なところに・・というのが、わかってきました。新しい住まい方というお話がありましたが、新しい「住まい方」像みたいなものはあるのでしょうか?

この議題にもなっていますが、「セカンドハウスのある暮らし」ってことでしょうね(笑)

場所が決まって、敷地が決まったら、次はどんな家にしようかということですが、それには設計者、建築家の存在が不可欠ですね。そのあたりをお聞かせください。

暖かいところでは、あまり気にすることも少ないですが~海に近いエリアでは塩害がありますが、寒冷地はやはり経験のある方がよいですね。
それから工務店さんは地元でという方。たいていの方は当然そう言うと思います。
地元の方でないと分からないこともありますし。寒冷地の経験者であれば、地元の工務店さんとの付き合いも当然あるわけですから、
その経験の中で教えていただいたこともあるはずです。あとは、その方が手がけたものを見て、いいなという方を見つけたら、
実際に会ってお話をして、相性がよいなと感じたら、それでOKではないでしょうか。他愛もないと思うようなことでも、疑問点などをぶつけてみてはいかがでしょうか。
他愛もない質問ほど、その答え方で、いろいろ分かると思います。

建築家によって、いろいろな設計の考え方があると思いますが、鈴木さん自身の考えをお聞かせください。

不特定多数の人が利用する施設と違って、家づくりにおいては、まずは何と言っても、建て主の方ですよね。
セカンドハウスでも同様です。建て主の方自身がどういう暮らしをしたいかが大切です。
それによって、空間のつくり方が変わってきます。見た目の部分もそうですね。特に色。落ち着いたダークな感じとか、明るいライトな感じとか、好みによって仕上材のトーンは違ってきます。
建築家として思うことは、建物の外観、これは自分のものではないということです。
周辺の環境に合わせてつくるもので、風景に馴染まなければなりません。だからと言って、悪いものに合わせるという意味ではありません(笑)。
セカンドハウスは自然に近いところでしょうから、やっぱり自然に溶け込むものにしたいですね。私自身は落ち着いた色の板張りにすることが多いですが、
敷地の場所やオリエンテーションの具合、カタチによって、同じ茶系でも黒寄りにしたり、茶寄りにしたり、微妙に色を変えています。
もちろん板張りだけが、ということはありませんし、敷地の環境によっていろいろ考えられると思いますが、やはり奇抜なものでないけど、ちょっと違うぞというようなものにしたい、というのが根底にありますね。

なるほど!外観は建て主の方のものでもないし、ましてや建築家のものでもないということですね。時々どうして?というような建物もありますものね。エゴのかたまり・・・みたいな。室内については、いかがですか?

室内に関しては、先ほどちらっと申し上げた色の部分が大きいですね。
落ち着いたダーク系がいいといか、明るいライト系がいいとか、そのあたりのお好みによってという感じで、建て主の方の好みから全体のイメージをつくり上げていきますが、
壁は白系を中心におすすめしています。これは豊かな自然を眺めるときに邪魔しないものをと考えているからです。そこに映る影も取り込んでいきたいですね。
部分的には板張りにすることもありますけど。これは一般の住宅でも同じで、絵を飾ったり、家具だったりと、インテリアの邪魔にならないようにということで、白系をおすすめしています。
それから床がダーク系だからといって、ダーク系ですべて統一したりということでなく、ダーク系の床にライト系の家具を合わせたり、その逆でライト系の床にダーク系など、そのときどきでインテリアもデザインしていきます。

それ以外では何か、気をつけていることはありますか?

とにかく居心地のよい、気持ちのよい空間をつくること。これに尽きます。そのために、できるだけ木や珪藻土などの自然素材をつかいたいとは思っています。
ただ、このあたりはコストも絡みますから、同じ工事費でも規模が大きければ予算は厳しくなりますし、建物規模とのバランスによってしまいます。
あとは先ほどの外観の話と絡みますが、造形的には矩形による建築デザイン~空間を構築するというと大げさですが、整形の建物をつくることを心がけています。外観は風景に馴染むような云々と申し上げましたが、やはり人間ですから、人間らしく、人間がつくったものとしての主張もありたいという建築家のエゴ(笑)もあって、
自然界にはないカタチ~矩形のデザインによって、風景に馴染むような表現をできないかということを考えています。
矩形で展開する中で何ができるか、どのくらい豊かな空間表現ができるかというのは、私自身の建築家としてのテーマでもあります。
何より矩形の空間は使い勝手もよいですし、無駄なコストもかかりませんから、これで居心地のよい豊かな空間ができれば、建て主の方にとって何よりと考えるからにほかなりません。

そこでも建て主の方につながっていくのですね。最後に究極のセカンドハウスって、何でしょうか?

これは難しい・・
当然のことですが、建物は建てたときが終わりではありません。始まりです。
特に厳しい自然の中に建つセカンドハウスでは、それが顕著です。
時が経って、ただの古いだけのものになってしまうのはなく、ますます風景に馴染んでいく味わいのある建物になれるか・・・頭の中から離れることはありません。
時が経つほどに、美しく~もちろん手はかけなければいけませんが。
究極のセカンドハウス、ひと言でいうと、「枯れる建築」そんなところでしょうか。

今回は場所選びや土地選びのポイントについて、お聞かせください。セカンドハウスを建てる場所を選ぶポイントをずばり教えてください。

大きく分けると、海か、山か、みたいなことがありますね。湖とか、川とかもありますが、こちらは山に属しそうですね。これはもう好き好きですからねぇ・・・
手に入れたい自然と言いますか、環境は好き好きということにさせていただいて、次に考えるのは、普段暮らしている場所との距離感ですね。
これはもっとも大事かもしれません。道路のアクセスがよいとか、そういうことがないと、せっかく建ててもおっくうになってしまいます。
多少遠くても、高速道路を使えれば、そんなに疲れませんし、逆に一般道を延々というと、つらいかもしれません。
距離だけでなく、そこまでの到達時間や道路状況がどうなっているかが大切です。
シーズン中はある程度混雑することが予想されますから、そのあたりも・・これは考えたらキリがありませんが。

ある程度実際の住まいの場所にも影響されるということですね。

そのほうが楽ですし、せっかく建てても行くのがおっくうになってしまっては・・
当然のことですが、気に入ったところであることが条件です。
近いからといって、自分が気に入らないところでは本末転倒です。

大きく分けると、海と山ですが、それぞれ気をつけなければならないこととかありますか?

どちらにも言えることですが、その土地のことをよく知ることです。
自然が豊かなところは、気候が厳しいものです。
自分が暮らしたことのないところですから、自分たちは知らないんだということをよく知っておくことでもあります。
ワンシーズンだけを見て、決めるのではなく、1年を通して、まずはその場所に何度も足を運んでみることから始めてはいかがでしょうか。
そうして周辺の建物の状況や街の様子を見たり、自然の移り変わりを体感して、自分たちの求める場所かどうか分かると思います。
オンシーズンとオフシーズンではお店の開き具合も変わってきますし。

海だから、山だから、と言う前にその土地を知れということですね

そうですね。
積雪のあるエリアならその具合は冬でないと分からないでしょうし。
具体的な敷地に出会ったら、もっと慎重に見る必要があります。1年を通じて、24時間通じて見たいものです。
せめて、夏と冬、午前と午後といった感じで。雪が降るところなら、道路も雪かきの状況とか(町や市で除雪あるいは別荘地だったら、その管理者)、そこまで車で入りやすいところか、とか。
風の強いエリアもありますので、そういうところとか。暖かいところは比較的変わらない気もしますけどね。
子どもの頃ご両親に連れて行ってたとか、学生の頃よく遊びに行ったとか・・・そういう思い出のあるところもよいですね。夫婦のもめごとになるような思い出の場所はまずいですけど(笑)
実際は1年を通じて、その土地を見るなんてことはなかなかできませんので、とにかく地元の不動産屋さんと仲良くなって、いろいろ教えていただきましょう。
価値観の合うよい不動産屋さんとの出会いが何より成功の鍵ですね。

素材について、お話をお聞きできればと思います。セカンドハウスにふさわしい素材というのはありますか?あるいは、ふさわしくないとか。

サイディング。ふさわしくないほうから(笑)
本当に興醒めしますね。軽井沢に行っても、せっかく森の中を歩いているのに、外壁がサイディングの建物に出会うと、何でまた・・という思いがします。
コストや耐候性のことなど、理解できる一面はありますが、セカンドハウスは自然の中に建てることが多いでしょうから、少なくても道路側の外から見えるところには確実に避けたい素材ですね。
私も耐候性やコストの面から屋根にはガルバリウム鋼板とすることが多いのですが、その場合屋根面が道路側など、外から見えないような造形とすることを心がけています。

確かに。あれはイヤですね。外観は自分のものでないということがよく分かります。ふさわしいほうはいかがでしょうか?

地のものでしょうか。食材みたいですが・・
建築もやっぱりその土地のもの、それに近いものがよいですね。
実際はなかなか難しい面もありますが、せめて雰囲気だけでも。
例えば、軽井沢なら森の木々に合うようなもので、タイルでも浅間石に近いようなものとか。
あとは、何といっても自然系の素材ですよね。

自然系の素材といいますと、珪藻土とか。

そうです。木やしっくい、珪藻土といった類のものです。
断熱材にまで自然系でこだわる方もいらっしゃいますが、そう多くはありません。ウールのものとか。
床のフローリングなどはもちろん無垢材。床暖房のときは、無垢の床暖房用のフローリングですが、無垢の風合いで足障りのよい三層のものを使うこともあります。
ほかには、麻やウールのカーペット。フローリングのように冷え切らないので、冬は暖かくてよいですから、寒冷地ではひとつの選択肢になると思います。
壁や天井にはしっくいや珪藻土など。こうした材料は消臭効果もありますので、長期不在の多いセカンドハウスでは調湿効果によるカビ対策と共に期待大ですね。
それから結露対策としても一定の効果が期待できると思います。
これは一般的に言われていませんので、あくまで私の印象ですが。
自然系の素材は乾燥収縮などによる割れが出ますので、この点ご理解いただくことも忘れてはなりません。

そうした素材に対する考え方は一般住宅とは違いますか?

一般住宅でも同じことが言えます。ただ期待する効果の割合といいますか・・そのあたりが、ちょっとずつ違うということでしょうか。それ以外の部分としては、住宅地のようなところでは、外部に木製の建具を使うことは私自身の設計でも少ないのですが、セカンドハウスではそのほとんどが木製としています。

木製の建具について、もう少し聞かせてください。

室内については、どの地域でも木製で製作していますが、外廻りは玄関だけですね。住宅地でも玄関だけは木製としています。これだけで雰囲気がずっとよくなりますので。アルミ製の玄関ドアだと「お帰りなさい」とか、「いらっしゃい」という人を迎え入れるやさしさにかけるような気がして。
セカンドハウスではもう少し踏み込んで、外部のサッシも木製でつくるようにしています。これは外壁など、外からの景観に馴染むということと、引込戸によって、空間に変化をもたらすことができるからです。もちろんガラスは12mmの空気層をもつペアガラスにしますし~できればガス入り、召し合わせのところは防風ゴムによって気密性を高める工夫をします。
ただ、木製の建具は反りやすく、変形しますので、季節によって、あるいは日によって、もっと言うとその日の時間によって、微妙に変わってきます。開け閉めは住まい手の馴れにゆだねるところもありますので、うまく付き合うという精神的な部分も大きく左右されます。セカンドハウスくらいの使用頻度ですと、慣れるには時間が掛かるでしょうけど、そんなにストレスにならず、ちょうどよいのではないでしょうか。
また、小さい窓は既製の木製サッシで、回転窓を用いることが多いです。小さい窓は北側に使うことが多くなりますので、三層ガラスで気密性もより高い既製の木製サッシは使い勝手がよいですね。

昔は木の建具でしたものね。最近では昔から建っている古い農家のお宅にもアルミサッシが入っていたりして、何だか味気ないですよね。ふさわしくない素材として、サイディングということをおっしゃってましたが、外壁の素材については、いかがですか?

前回少しお話していますが、外壁は板張りにすることが多いです。住宅地でも同じで、どこかに木を使うようにしていますが、セカンドハウスが建つ環境では、間違いなくそうした材料によって、デザインしていきます。板張りの家はサイディング、ガルバリウム鋼板の家のようにメンテナンスフリーというわけにはいきませんが、それなりに付き合っていけば、結構丈夫な素材ですし、何といっても、時が経つごとに味わい深くなっていきます。新しい家でも落ち着いて見えますし、やさしい雰囲気に仕上がります。
板も縦に張るか、横に張るかで、全然違ってきますし、横張りでも下見板張りとフラットなものでは印象が違いますので、造形によって、張り方や板張りとそうでない部分のつくり具合を選択しています。
私の手がけたものは、純粋に板張りだけのものって、ほとんどないですね。ポイントで白がはいったり、白壁とのツートンだったり、板張りでも普通の板とリブ付の板を張り分けたり、陰影がでるような仕掛けをしています。

外壁を板張りにしたりすると、メンテナンスのことが気になりますが、そのあたりはいかがでしょうか?素人ではなかなか判断がつかないこともあるでしょうし。

よほど変な納まりをしていなければ、意外と丈夫ですので、それほど心配されるようなこともないと思います。
「工務店は地元で」というのも、そのあたりのことも含んでのことになります。フットワークが全然違いますから。それと、そのために私がいますので、「どうかなぁ」と思ったら、「たまには、一緒に一杯いかが」なんて、お誘いいただければ、飛んで行きます(笑)

セカンドハウス、週末住宅~それよりも一歩進んで、実際に移住される方も多いと伺います。アトリエ137では、そういう方々の家をよく手がけているそうですが、どのような方が多いのですか?

一歩?二歩も、三歩も(笑)
ごくごく普通の、一般のかたです。特別な思想があるとか、そういうことはありません(笑)
転勤などがひとつのきっかけになって、実際にその場所で暮らしてみて、その場所を気に入って、いよいよ「家を建てよう」と決断される方が多いと思います。
いきなりという方は少ないですね。
もちろんコンクリートジャングルから離れて、自然のなかでゆったり過ごしたいというのは皆さん共通だと思います。

「転勤などによって、勤務先が移住先になる」ことはイメージできますが、軽井沢や熱海に移住しても、職場は東京で新幹線通勤されているかたも多いと伺います。家を建てるとき、土地選びはとても重要だと思いますが、それも移住先となると、かなり難しい印象を受けますが・・

ほんとですね。土地選びだけでも難しいのに、移住なんて・・職場が都内となると、なおさら大きな決断です。交通の便も重要でしょうし。
そういう意味で、軽井沢や熱海というのは新幹線で1時間ですから通勤を考えても理想的です。在来線でも1時間電車に揺られることを思えば、そのほうが楽と考えるのも分かるような気はします。帰ってくれば、あの気持ちのよい環境が待っていますし。
ただ終電が早いとか、ひと駅がロングスパンですから、ここは気をつけないといけません。ちょっとお酒を飲んで、いい気持ちで乗り過ごすと、かなり遠くへ(笑)

・・確かに(笑)皆さんが移住先を選ぶポイントって、鈴木さんはどのように感じていらっしゃいますか?

転勤などで勤務先がという方は、そこでの暮らしの経験がありますので、運というか、めぐり合わせ、出会いということなのでしょうけど。
いろいろな方がいらっしゃいますが、例えば・・
スイスから帰国して、同じような環境で暮らしたいということで、軽井沢へ移住を決断されて、新幹線通勤をされているかたがいらっしゃいます。でも、相当な寒がり(笑)
もともとは移住を視野に入れながら、週末住宅をメインにしつつ、都内に「平日住宅」?(笑)を借りて、時期をみて移住しようと二段階方式でお考えだったのですが、家ができてきたら、「引越しちゃおう」ということになって、そのまま移住してしまいました。

いきなり?!かなり勇気がいりますね・・

Aスイスのような環境で過ごした経験があって、軽井沢のような自然環境には理解もありましたので、踏み出しやすかったかもしれませんね。もともと近い将来に移住することを考えていらっしゃいましたし。
新幹線通勤できる職場の環境が整っていたことも大きいと思いますし、お子さんが小さかったこともあって、自然の豊かなところで子育てをという思いも強かったかもしれません。

子育ても大きな理由なのでしょうか?

そういう面はあると思います。東京だと、小学校からお受験みたい環境もありますし、子どもたちが自由に遊べるところも少なく、伸び伸び育てたいという親御さんにとって軽井沢のような環境は魅力的だと思います。
数年前の統計ですが、小学校も移住組の増加で1クラスが増えるくらいでしたから、お子さんが小さいうちに移住される方は想像以上に多いと思います。

だからと言って、移住というのは大きな決断ですよね。そういう意味でも、二段階方式というのは、なるほどという感じがします。先ほどの方は二段階方式で考えていたのに、いきなり移住されてしまいましたが(汗)

まずは小さな週末住宅を建てて、数年後に移住された方も実際にいらっしゃいます。北欧を旅行して、ああいう感じが好きになり、その雰囲気に近いということで軽井沢を選んでいます。この小さな週末住宅も私が手がけさせていただきましたが、お子さんが小学生になり、移住されたことをきっかけに、現在増築の計画を進めています。自営のかたで、比較的動きやすい職業でしたが、大きな決断だったと思います。でも、このタイミングを逃すと、お子さんも成長して、難しくなりますので、ぎりぎりの選択だったのかもしれません。

「定年後は移住して」みたいな・・よくあるイメージが少し変わってきました。

そうですね。私のところにいらっしゃる方は、年配の移住組は意外と少なくて、別荘として、楽しんでいる方が多いですね・・そうそう、年配のかたもいらっしゃいました。
まずは、娘さんご家族が軽井沢に移住されたのです。お父さん(娘さんの旦那さん)が転職先を決めて、半年くらい単身赴任で様子をみてから、家族を呼び寄せて。そこからさらに、1年くらい暮らしてみて、よい土地がみつかったということで、私のところへ相談に来てくれました。
私の軽井沢第一号です!
当時小学生だったお子さんももう高校生と大学生で、二人とも軽井沢にはいません。あっという間ですね・・その意味でも、小さいうちに移住するのは、よい選択だと感じています。お子さんがいることで、自分たちもコミュニティに馴染みやすいですし。
その後、ご両親も娘さんご家族の近くに築30年くらいの古家を購入して・・リフォームさせていただいたのですが、最初は別荘としてお使いだったのですが、よほど軽井沢での生活が気に入ったのか、1年後には東京のご自宅を引き払って、完全に移住されたんですよね。娘さんご夫婦がいたことも大きいとは思いますが、お孫さんともよい時間が過ごせたのではないでしょうか。

ご両親まで・・いろいろなかたがいらっしゃいますね。それだけ魅力ある暮らしなのでしょうね。熱海のかたは、いかがですか?

ご夫婦二人で、東京から真鶴へ引越しされて。真鶴での暮らしがとてもよかったのでしょうね。そこでの出会いで、現在でも畑仕事を楽しんだり、みかん畑で収穫したり、とても楽しんでいらっしゃいます。
当初は真鶴で探していたのですが、なかなかよい土地に出会えず、少し足を伸ばして、熱海へと。東京では高層マンションだったこともあって、眺望がよくて、視界の抜けがよいところをと土地探しを続け、現在の場所に出会いました。土地選びからお付き合いしましたが、この場所はとてもよい出会いだったと思います。
買わなかったから、私が買おうと思ってましたから(笑)
真鶴での経験で、ご主人の通勤のリズムもつかめたのも大きいと思います。

うらやましいですね。それにしても、田舎暮らしというより、もう少し洗練された「リゾートに暮らす」という印象が持ちますね。

建築家で家を建てる方々ですから!
やっていることは、薪割したり、畑をやったり、田舎暮らしという側面も普通にあると思いますが、確かに田舎暮らしというよりは、リゾートに暮らす!みたいな雰囲気の方のほうが強いかもしれませんね。

家の設計にあたって、一般的な住宅とはご要望も違いますか?

私にご依頼いただく方の多くは、「一般的な住宅ばかり手がけている人でなく、別荘をやっている人に設計してもらいたい」とお越しになります。
一般的には逆に考えられているようなイメージも私自身ももっていましたが、こういう環境のところですから、住宅の視点に留まらないものを求められるのだと思います。
当然と言えば、当然ですよね。
まさに「リゾートに暮らす」です!

移住する方なら、なおのこと。そうは言っても、住宅ですから、「リゾートに暮らす」という部分と「家としての機能」的なところで、ご要望が矛盾したりしないものですか?

ほとんどないと思います。
確かに、軽井沢のような寒冷地で、大きなガラス面をとるのも、性能的にはどうなんだろう・・みたいなもあるかもしれませんが、ここは「リゾートに暮らす」が勝ってしまいますね。
矛盾と言えば、軽井沢に移住するというのに、寒がりな方がほとんどで、えっ~と思いますけど、氷点下15℃ですからね・・寒がりでなくても、家のなかは暖かくなくてはいけません。
あとは・・奥さまの「虫がやだ」みたいな(笑)

冗談はさておき、家の性能面は非常に大切です。パッシブのような考え方をできるだけ取り入れて、断熱や気密、窓面の熱損失などをよく考えながら、暖房設備による環境負荷も抑えたいと思っています。
こうした性能面に加えて、豊かな自然環境を取り込んだ居心地のよさ、視覚的にも美しいデザインとすることが私たち建築家の使命だと思っています。

建築家選びについてお聞きする前にもう一度土地選びについておさらいしておきたいと思います。海とか、山とか、いろいろありますけど、皆さんどういう感じで選んでいるのでしょうか?

いろいろご縁もあるのでしょうけど、取り立てて、理由がある印象はありません・・シンプルに好き好きだと思いますね・・
地の利もあるかもしれません。特に移住はしても、東京まで通っている方は駅までのアクセスなんかも、土地を決めるときのポイントにはなっていると思いますが、これは海とか、山とか、大きなところとはちょっとと違いますよね。

その場所が「好き」ということが大前提ですよね。それと移住される方の多くは、そこでの暮らしがイメージできる何かしらの経験をお持ちのかたなんだなぁという印象をあらためて持ちました。それにしても、知らない土地での生活にとまどいはないのでしょうか・・

皆さんのお話を聞くと、かなり楽しんでいるようです。もちろんそうでなければ、続きませんけど。
でも、特にご縁があったとかではなく、選択としては一から始めているかたが多いことは私も驚きでした。その場所が「好き」であることは当たり前として、小さいお子さんをお持ちの方が多いのも、コミュニティに馴染んでいくきっかけになっていると思います。
やっぱり気持ちのいい場所で、居心地のよい家があれば、楽しく暮らせるのではないでしょうか!

建築家を選ぶとき、地元のかたがよいような気もしますが、鈴木さんに依頼される方は、何をポイントにされているのでしょうか?

経験でしょうか・・軽井沢のような湿気も多く、冬は極寒となると、こういう過酷な気象条件を知っていることは、大切ですよね。
それとよく言われるのが、住宅だけでなく、別荘もたくさん手がけていることも決め手のようです。このバランスなのでしょうね。
せっかく豊かな自然環境のなかで家をつくるのに、ただ機能的な住宅をつくってもつまらないですし、楽しみというか、居心地のよさというか、遊びみたいなところもほしいというのが皆さんの共通のご要望ですので、こういう住宅としての機能と別荘のようなラグジュアリーな空間づくりのバランスは皆さんが求めるところです。

なるほど。せっかくこういう場所に建てるのですから、ただ機能を満たすだけの住宅ではつまらないですし、かと言って、別荘のように楽しめればよいというものでもない・・このバランスは確かに重要ですね。

軽井沢の冬はほんとにつらい(笑)
家のなかは暖かく過ごしたいですし、光熱費だって節約したい。
このあたりはたくさん経験させていただくなかで、いろいろ教えていただいて、私自身の設計もずいぶん進化してきました。

具体的にはどのあたりが変わってきましたか?

パッシブに近い考え方でしょうか。高断熱・高気密と設備のバランス・・さらにはコストとのバランスもありますが、ある程度の仕様にしておくことは極寒の冬を乗り切るには重要です。

ここでもバランスですね。

このバランスをとるといのが、意外に難しいんです。つきつめるのも難しいですが、つきつめるほうはコストをしっかりかけてやれば、たいていのことはできますが、コストとそこでの暮らしと、最善と思われるバランスを探していきます。
このあたりは軽井沢というエリアでの経験がほかの地域でも生きていると思います。気をつけなければいけないことって似ていますし。コストとのバランスを見通しつつ、地元の工務店さんの話もポイントを押さえて聞くことも大切ですね。

建築家選びのポイントが経験というと、経験のなかかたにはチャンスがありませんが・・鈴木さんも最初はなかったわけですよね?それ以外ではいかがですか?

あとは、キャラクター???

軽井沢で最初にご依頼いただいた方は、「一緒に飲んだら楽しそう」みたいなことで(笑)
「話しやすい」というのはポイントだと思います。自分の家を建てるのに、言いたいことも言えなくては、そう多くない家づくりの楽しい時間がつまらないものになってしまいますよね。

コミュニケーションですねぇ!

家づくりもエンターテイメント?ご自身で楽しんで、私も楽しく、楽しんでいただけるように心がけています!